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地域を越えた人為的な移動が、東京のゲンジボタルの地域的な遺伝構造をかく乱~全国164個体群・1,109個体のミトコンドリアDNA(COII)解析で、東京の70%超の個体群から地域外系統由来のハプロタイプを確認~

明星大学

 明星大学、国際基督教大学、鹿児島大学、佐賀大学の共同研究グループは、全国164個体群・1,109個体のゲンジボタルについてミトコンドリアDNA(COII)を解析しました。全国では東本州、西本州・四国、九州に対応する3つの主要なミトコンドリア系統が確認されました。一方、東京では70%超の個体群が地域外系統由来のハプロタイプを含んでいました。これは東京の生息地では、多くの場所で東京由来とは異なる地域を起源とするホタルが共存していることを示しています。論文は、まれな自然分散だけでは説明しにくく、繰り返しの人為的な国内移入(domestic translocation)が最も簡潔な説明であると結論づけています。


【発表概要】

 ゲンジボタル(Nipponoluciola cruciata)は、地域によって求愛時の発光間隔が異なり、これまでの研究から東本州、西本州・四国、九州に対応する3つの主要な遺伝系統が知られています。本研究では全国164個体群・1,109個体のCOII配列を解析しました。東京では西本州・四国系統のハプロタイプが頻繁に、九州系統由来のハプロタイプも一部地点で検出され、70%超の個体群が地域外系統由来のハプロタイプを含んでいました。調査した他地域には東京に匹敵する地域レベルの混在は認められませんでした。なお、本研究が直接示すのはミトコンドリアDNAに基づく母系系統の混在であり、系統間の交雑そのものを直接証明するものではありません。

図 結果の概要

【研究者情報】

明星大学 理工学部 
 鈴木 浩文 非常勤講師
 柳川 亜季 准教授
国際基督教大学 教養学部
 上遠 岳彦 准教授(~2024年)、現非常勤講師
鹿児島大学 理工学研究科(理学系)
 加藤 太一郎 教授
佐賀大学 農学部
 永野 幸生 教授

【論文情報】

雑誌名 Conservation Genetics(2026)27:102
論文タイトル Human-mediated domestic translocation disrupts regional phylogeographic 
structure of the Genji firefly (Nipponoluciola cruciata) in urban Tokyo
著者 Hirobumi Suzuki1, Sakutaro Yamagishi2, Takehiko Kamito2, Dai-ichiro Kato3, Yukio Nagano4, Aki Yanagawa1(責任著者) 1.明星大学、2.国際基督教大学、3.鹿児島大学、4.佐賀大学
DOI 10.1007/s10592-026-01833-3
受理日 2026年8月13日

【研究の背景】

 ゲンジボタルは本州・四国・九州と周辺の島々に分布します。オスの平均発光間隔は東本州で約4秒、西本州・四国・九州で約2秒で、その境界はおおむねフォッサマグナに対応します。既往研究では、地理と発光行動におおむね対応する強い系統地理構造と、東本州、西本州・四国、九州の3つの主要な遺伝系統が示されてきました。
 東京では、環境再生や催事などに伴ってゲンジボタルが導入され、供給元の地理的由来が十分に分からない場合もあります。過去の研究では東京から西日本に特徴的なハプロタイプが見つかり、人為的移植による遺伝的かく乱が疑われていました。しかし、その広がりや空間的パターンを全国規模の塩基配列データと比較した評価は十分ではなく、まれな自然分散と繰り返しの人為的移入のどちらが説明として適切かも明確ではありませんでした。

【研究の方法】


全国164個体群から計1,109個体のゲンジボタルを対象に、ミトコンドリアDNAのCOII領域を塩基配列解析しました。

得られたCOII配列から154種類のハプロタイプを同定しました。系統樹解析では3つの主要な遺伝的系統のまとまりが認められました。

最尤系統樹とmedian-joiningハプロタイプネットワークを作成し、遺伝的分化(Kst)と遺伝的連結性の指標(Nm)を比較しました。

得られた塩基配列から既往研究のRFLP型(A~W)をコンピュータ上で推定するin silico RFLPを行い、主要な系統地理パターンをどの程度捉えられるかを検討しました。



【主な研究成果】


全国では、東本州、西本州/四国・九州に対応する3つの主要なミトコンドリア系統を確認
 最尤系統樹とハプロタイプネットワークの双方で、東本州、西本州・四国、九州に対応する3つの主要なミトコンドリア系統が一貫して支持されました。3地域間では遺伝的分化が大きく、遺伝的連結性の推定値が低かったことから、自然分散だけでは地域間の遺伝的つながりを維持できないことが示されました。

東京では、西本州・四国系統が頻繁に、九州系統も一部地点で検出
 東京では、東本州系統に加えて西本州・四国系統に特徴的なハプロタイプが頻繁に検出され、九州系統由来のハプロタイプも限られた地点で確認されました。解析した東京の個体群の70%超が地域外系統由来のハプロタイプを含んでいました。東京以外にも例外的な個体群はありましたが、調査した他地域に東京と同程度の地域レベルの混在は認められませんでした。

まれな自然分散だけでは説明しにくく、繰り返しの人為的な国内移入が最も簡潔な説明
 東京と西本州・四国の間では、自然に分かれた主要地域間より高い遺伝的連結性の指標が得られました。東京が東本州に位置すること、他地域で強い系統地理構造が保たれていること、導入履歴との対応を総合し、論文は、繰り返しの人為的な国内移入を最も簡潔な説明としています。保全活動に伴う意図的導入に加え、一部では非意図的な移動の可能性も論じています。



【研究の意義と展望】

 本研究は、同じ種の本来の分布域内で個体を地域間移動させる「国内移入(domestic translocation)」が、長期に形成された系統地理構造をかく乱し得ることを東京のゲンジボタルで示しました。直接示されたのは、ミトコンドリアDNAに基づく母系系統の混在と地域構造の変化です。地域適応の消失や異系交配弱勢は論文で潜在的リスクとして議論されていますが、本研究で直接測定したものではありません。よって、今後は体細胞ゲノムレベルでの解析が期待されています。
 論文では、東京の個体群を複数の地域系統が混在した管理単位として扱うことを提案しています。東京で東本州系統のハプロタイプを主に保持する個体群を特定し、将来の復元の候補供給源として優先すること、再導入が必要な場合には地理的に近く遺伝的に適合する供給元を用いることを推奨しています。

【保全活動への提案】


由来が不明な個体を用いた無規制な個体数補強・再導入を避ける。

再導入が必要な場合は、地理的に近く、遺伝的に適合する供給元を選ぶ。

東京で東本州系統のハプロタイプを主に保持する個体群を把握し、将来の復元に用いる候補供給源として優先する。

塩基配列解析を細かな系統推定の基準としつつ、RFLPに基づく判定を低コストの長期モニタリングの補助的手段として活用する。



【用語解説】

[1]国内移入(domestic translocation)

同じ種の本来の分布域内で、人が個体を地域間で移動させること。本研究では、地域ごとに異なる系統地理構造をもつゲンジボタルの導入や個体数補強などが該当します。外来種の導入とは異なりますが、長期に形成された地域的な遺伝構造を変化させる可能性があります。

[2]ミトコンドリアDNA・COII

ミトコンドリアに含まれるDNAで、母系の系統を追跡する指標として利用できます。COII(cytochrome oxidase II)はその遺伝子の一つです。本研究はCOII配列から系統地理構造を解析しましたが、ミトコンドリアDNAだけでは地域系統間の交雑を直接判定できません。

[3]ハプロタイプ

あるDNA領域の塩基配列の型。本研究では1,109個体から154種類のCOIIハプロタイプを検出し、その系統関係と地理分布から3つの主要なミトコンドリア系統と、東京における地域外系統由来ハプロタイプの混在を評価しました。

[4]RFLP

Restriction Fragment Length Polymorphism(制限酵素断片長多型)の略。DNAを制限酵素で切断したときのパターンの違いから型を判別する方法です。本研究では塩基配列から既存のRFLP型をコンピュータ上で推定(in silico RFLP)し、主要な系統地理パターンを捉える補助的なモニタリング手法としての有用性を検討しました。

【研究費・データ公開】

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP22K05716)、明星大学研究助成、および明星大学新教育構想「明星 SATOYAMA プロジェクト」を受けて実施されました。
本研究で得られたミトコンドリアCOII配列は、DDBJに登録されています(アクセッション番号:LC925723~LC926831)。

【問い合わせ先】

■研究内容に関すること

鈴木 浩文(責任著者/明星大学理工学部 非常勤講師)
E-mail:hirobumi.suzuki@meisei-u.ac.jp

■報道・広報に関すること

明星大学
アドミッションセンター 学生募集・広報チーム
〒191-8506 東京都日野市程久保2-1-1
TEL:042-591-5670
E-mail:koho@meisei-u.ac.jp国際基督教大学(ICU)
パブリックリレーションズ・オフィス
〒181-8585 東京都三鷹市大沢3-10-2
TEL:0422-33-3040/FAX:0422-33-3355
E-mail:pro@icu.ac.jp鹿児島大学
国立大学法人鹿児島大学 広報センター
〒890-8580 鹿児島県鹿児島市郡元1-21-24
TEL:099-285-7035/FAX:099-285-3854
E-mail:sbunsho@kuas.kagoshima-u.ac.jp佐賀大学
国立大学法人佐賀大学 広報室
〒840-8502 佐賀県佐賀市本庄町1
TEL:0952-28-8153/FAX:0952-28-8921
E-mail:nagano@cc.saga-u.ac.jp (研究室)

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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