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寒天由来の「アガロオリゴ糖」が腸内細菌叢を介して脂質代謝を改善することを肥満モデルラットで確認

学校法人藤田学園

― 有用菌の増加や脂質合成遺伝子の抑制など一連のメカニズムを提示 ―

藤田医科大学(愛知県豊明市、学長:岩田仲生)医学部 消化器内科学講座(大野栄三郎教授)および医科プレ・プロバイオティクス講座(廣岡芳樹教授)の研究グループは、伊那食品工業株式会社(長野県伊那市、代表取締役社長:塚越英弘)と共同で、寒天由来の機能性オリゴ糖「アガロオリゴ糖(AOS)※1」が、肥満モデルラットにおいて腸内細菌叢と胆汁酸代謝を変化させ、脂質代謝を改善することを明らかにしました。
本研究成果は、日本ビタミン学会・日本栄養・食糧学会が発行する国際学術誌「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」(72巻4号)に掲載され、併せてオンライン版が2026年8月31日に公開されました。
論文URL: https://doi.org/10.3177/jnsv.72.343

AOSはこれまでにも抗肥満作用が報告されていましたが、腸内細菌の代謝産物を介した詳細な作用メカニズムは不明でした。本研究では、遺伝的に過食・肥満を呈するOLETFラット※2を用い、AOSの13週間摂取が体重・血液検査値・肝臓脂質・腸内細菌叢・胆汁酸・短鎖脂肪酸※3・肝臓および回腸の遺伝子発現に及ぼす影響を総合的に解析しました。その結果、AOS摂取により肥満関連指標の悪化が抑えられるとともに、腸内では有用菌Akkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)※4が増加し、脱抱合型胆汁酸※5の減少、回腸におけるセラミド※6合成関連遺伝子および肝臓における脂質合成関連遺伝子の発現低下が確認されました。「腸内細菌叢 → 胆汁酸 → 腸管セラミド → 肝臓の脂質合成」という一連の経路をAOSが調節している可能性を示した成果です。

<研究成果のポイント>
●肥満モデルラットで体重増加と内臓脂肪蓄積を抑制
OLETFラットにAOSを含む飼料(体重1kgあたり1日2 g相当)を13週間与えたところ、対照飼料群と比べ13週時点の体重(604.7 g → 530.9 g)、精巣上体周囲脂肪重量(9.0 g → 6.3 g)、肝臓重量(18.5 g → 15.9 g)が有意に低下しました。摂食量には差がなく、摂食量の減少によらない効果であることが示されました。
●血糖・インスリン・コレステロール・中性脂肪の上昇を抑制
AOS摂取群では血漿グルコース(228.5 → 189.8 mg/dL)、インスリン(3.0 → 1.1 ng/mL)、総コレステロール(197.7 → 156.5 mg/dL)、中性脂肪(271.0 → 152.9 mg/dL)がいずれも有意に低下しました。肝臓中の中性脂肪も24.1 mg/gから13.8 mg/gへ有意に減少し、正常ラット(LETO)と統計的に差のない水準まで改善しました。
●有用菌Akkermansia muciniphilaが増加
盲腸内容物の16S rRNA遺伝子解析の結果、AOS摂取により腸内細菌叢の構成(β多様性)が有意に変化し、属レベルでAkkermansiaの相対存在量が約4%から約10%へ増加、種レベルでもA. muciniphilaの有意な増加が確認されました。Akkermansiaは体重や血中脂質などの肥満関連指標と負の相関を示しました。
●胆汁酸・短鎖脂肪酸プロファイルの変化
AOS摂取群では、肥満群で増加していた脱抱合型胆汁酸(コール酸)および二次胆汁酸(デオキシコール酸、リトコール酸)が有意に低下しました。また、肥満群で高値を示していた盲腸内の酢酸・プロピオン酸・酪酸もAOS摂取により低下し、これらは肥満関連指標と正の相関を示しました。
●回腸のセラミド合成遺伝子と肝臓の脂質合成遺伝子を抑制
胆汁酸により誘導され肝臓の脂質合成を促すことが知られる腸管セラミドについて、その合成に関わる遺伝子(Cerk、Des1、Cers6、Spt2)の回腸での発現が、AOS摂取により有意に低下しました。併せて、肝臓の脂質合成のマスター制御因子Srebp1※7と、その下流のAcc、Scd1、Fasnの発現も有意に低下しており、血中・肝臓中の中性脂肪減少を裏付ける結果となりました。

<背 景>
肥満は世界的に増加を続けており、2型糖尿病、高血圧、がん、肝疾患などの重大なリスク因子です。近年、腸内細菌叢が肥満の発症に関与することが明らかとなり、腸内環境は肥満の予防・管理における新たな標的として注目されています。
アガロオリゴ糖(AOS)は、寒天を弱酸性条件で加水分解して得られる2~8糖のオリゴ糖で、D-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースが交互に結合した構造を持ちます。これまでに抗炎症作用や抗肥満作用、脂質代謝改善作用が報告されているほか、本学研究グループは、AOSが有用菌を保ちながら特定の有害菌を選択的に抑制するというプレバイオティクスとしての新しい特性を報告してきました。しかし、AOSの抗肥満作用が腸内細菌のどの代謝産物を介して宿主の脂質代謝に及ぶのかは、十分に解明されていませんでした。

<研究手法・研究成果>
7週齢の雄性OLETFラット(肥満モデル)と、その対照系統であるLETOラット(正常)を、それぞれ通常飼料(AIN-93G)群と、飼料中のセルロース5%をAOSに置き換えた群に分け(各群7匹)、13週間自由摂取させました。AOSは伊那食品工業株式会社が提供し、その組成はアガロビオース41.8%、アガロテトラオース41.0%、アガロヘキサオース14.5%、アガロオクタオース2.7%でした。投与量は、体重1kgあたり1日2 g相当と、既報より低用量に設定しました。試験終了後、体重・臓器重量、血漿中のグルコース・インスリン・コレステロール・中性脂肪・遊離脂肪酸、肝臓中の中性脂肪・コレステロールを測定するとともに、盲腸内容物について16S rRNA遺伝子解析(腸内細菌叢)、LC-MSによる胆汁酸および短鎖脂肪酸の定量、さらに回腸および肝臓におけるセラミド合成・脂質合成関連遺伝子の発現解析(qRT-PCR)を行いました。
その結果、AOSは正常ラットには大きな影響を与えない一方、肥満ラットでは肥満関連指標の上昇を広範に抑制しました。腸内ではA. muciniphilaの増加と脱抱合型・二次胆汁酸の減少が生じ、これに伴って回腸のセラミド合成遺伝子と肝臓の脂質合成遺伝子の発現が低下していました。これらの結果は、AOSが腸内細菌叢と胆汁酸代謝を調節し、腸管でのセラミド合成を抑えることを通じて、肝臓での脂質合成を抑制するという作用機序を示唆しています。

<今後の展開>
本研究は動物モデルによる基礎的な検討であり、OLETFラットは過食による肥満モデルであること、腸内細菌叢の変化と代謝改善との因果関係は今後の検証が必要であること、胆汁酸組成はげっ歯類とヒトで大きく異なることなどの限界があります。今後は、無菌動物やヒト腸内細菌叢を定着させた動物モデル、さらにヒトを対象とした臨床試験により、本研究で示された作用機序を検証していく予定です。
本学研究グループと伊那食品工業株式会社は、AOSに関して健常成人を対象としたヒト介入試験(Biomedicines誌、2026年5月)をはじめとする一連の研究を進めており、本成果は、AOSを肥満・脂質異常など生活習慣病領域のプレバイオティクスとして社会実装していくうえでの基盤的知見となることが期待されます。

<用語解説>
※1 アガロオリゴ糖(AOS):
寒天(アガロース)を弱酸性条件で加水分解して得られるオリゴ糖。D-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースがα-1,3結合とβ-1,4結合で交互に連なった2~8糖の混合物で、ヒトの消化酵素では分解されず腸内細菌に利用されるプレバイオティクスとして研究されている。
※2 OLETFラット:
Otsuka Long-Evans Tokushima Fattyラット。遺伝的に過食を呈し、加齢とともに肥満・高脂血症・高血糖を自然発症する、肥満およびメタボリックシンドロームの代表的な動物モデル。対照系統としてLETO(Long-Evans Tokushima Otsuka)ラットが用いられる。
※3 短鎖脂肪酸:
腸内細菌が糖を発酵して産生する酢酸・プロピオン酸・酪酸など。一般に健康に有益とされる一方、肥満や脂肪肝では便中濃度が上昇するとの報告もあり、その役割は状況により異なると考えられている。
※4 Akkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ):
腸の粘液層に生息する腸内細菌。肥満や糖尿病の改善、腸管バリア機能の維持との関連が報告され、次世代のプロバイオティクス候補として注目されている。
※5 胆汁酸(抱合型・脱抱合型・二次胆汁酸):
肝臓でコレステロールから合成され、脂肪の消化吸収を助ける物質。肝臓ではタウリンなどと結合した「抱合型」として分泌され、腸内細菌により結合が外れた「脱抱合型」(コール酸など)や、さらに変換された「二次胆汁酸」(デオキシコール酸、リトコール酸など)となる。これらは腸管の受容体を介して宿主の代謝を調節する。
※6 セラミド:
脂質の一種。腸管で胆汁酸により合成が促進され、血流を介して肝臓の脂質合成(Srebp1経路)を活性化し、肥満や脂肪肝に関与することが報告されている。
※7 Srebp1:
肝臓における脂質合成のマスター制御因子(転写因子)。Acc、Fasn、Scd1などの脂肪酸合成酵素の遺伝子発現を統括し、その過剰な働きは肝臓への脂質蓄積を招く。

<文献情報>
●論文タイトル
Agaro-Oligosaccharides Modulate Gut Microbiota to Improve Lipid Metabolism in Obesity Model Rats

●著者
倉満健人, 北浦靖之, 唐澤幸司, 干場ナターシャ, 藤井匡, 高橋秀明, 大野栄三郎, 舩坂好平, 廣岡芳樹, 栃尾巧

●所属
名古屋大学大学院 生命農学研究科/中部大学 応用生物学部/伊那食品工業株式会社/藤田医科大学 医学部 消化器内科学講座/藤田医科大学 医科プレ・プロバイオティクス講座/株式会社BIOSIS Lab./名古屋学芸大学大学院 栄養科学研究科

●DOI
10.3177/jnsv.72.343             






本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp

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