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東京医科大学・熊本大学の共同研究チーム「サイトカインストームを回避する新たなCAR-T細胞療法 補助刺激受容体2B4を用いたCARの基盤研究」 〜新たな免疫チェックポイント療法やCAR-T細胞療法への応用に期待〜

東京医科大学

東京医科大学・熊本大学の共同研究チーム「サイutf-8



東京医科大学免疫学分野 横須賀忠主任教授、熊本大学大学院医学教育部博士課程 松島遼平大学院生(当時)、熊本大学大学院生命科学研究部呼吸器外科・乳腺外科学 鈴木実教授を中心とする研究チームは、T細胞補助刺激受容体*¹である2B4(CD244、SLAMF4)の超解像イメージングを通して、2B4シグナル伝達のスイッチング機構によるTリンパ球(T細胞)調節機構を明らかにし、その特徴を応用した炎症性サイトカインの産生を抑えたキメラ抗原受容体(CAR)の基盤モデルを確立しました。この成果によって、2B4の機能を応用したCAR-T細胞療法や、新たな免疫チェックポイント阻害抗体の開発に期待が持たれます。




【概要】
 東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)免疫学分野 横須賀忠主任教授、熊本大学大学院医学教育部博士課程 松島遼平大学院生(当時)、熊本大学大学院生命科学研究部呼吸器外科・乳腺外科学 鈴木実教授を中心とする研究チームは、T細胞補助刺激受容体*¹である2B4(CD244、SLAMF4)の超解像イメージングを通して、2B4シグナル伝達のスイッチング機構によるTリンパ球(T細胞)調節機構を明らかにし、その特徴を応用した炎症性サイトカインの産生を抑えたキメラ抗原受容体(CAR)の基盤モデルを確立しました。この研究は日本学術振興会科学研究費補助金等の支援の下で行われ、研究成果は米国Cell Press社の国際科学誌iScienceのオンライン版に2024年12月21日付けで掲載されました。この成果によって、2B4の機能を応用したCAR-T細胞療法や、新たな免疫チェックポイント阻害抗体の開発に期待が持たれます。

【本研究のポイント】
●T細胞上の補助刺激受容体2B4は、リガンドであるCD48に結合した後に数十個が凝集し、シグナルユニット「2B4マイクロクラスター」を形成しました。
●2B4は、アダプター分子SAPの量が少ないとT細胞のサイトカイン産生を抑制し、多いと亢進させる『スイッチ機構』を持っていることが、超解像イメージング解析によって明らかになりました。
●2B4を入れてデザインしたCAR-T細胞が、低サイトカイン産生を維持しながら、他のCAR-T細胞と同等の抗腫瘍効果を示す結果が、担がんマウスモデルの実験から示されました。

【研究の背景】
 がん免疫療法において、免疫チェックポイント分子阻害(ICI)療法に続く、第2のブレイクスルーとして、「キメラ抗原受容体(CAR)導入T細胞療法」が近年、大きな注目を浴びています。CAR-T細胞療法は、これまでがん免疫療法として長く行われてきた「養子免疫療法」の1つで、患者から採取したT細胞に、がん抗原を認識する抗体とT細胞受容体を部分的につなぎ合わせた人工の受容体CAR(chimeric antigen receptor)を遺伝子導入して体に戻すことで、劇的な効果が得られる治療法です。日本でも、チサゲンレクルユーセル(キムリア®)やチサゲンレクルユーセル(イエスカルタ®)が知られています。オーダーメイド治療のため非常に高額で、日本国内でも限られた施設でしか行うことができませんが、通常の癌治療では治らなかった悪性リンパ腫や白血病の一部の症例で確かな治療効果が認められています。また最近は悪性黒色腫などの固形腫瘍に対する適応も検討され始めており、新たな腫瘍をターゲットにしたCAR-T細胞の開発が年々加速しています。一方、重大な事象として、CAR-T細胞による脳炎や、活性化したCAR-T細胞が放出する過剰な炎症性サイトカインが引き起こす「サイトカイン症候群」が知られています。サイトカイン症候群は、新型コロナウイルス感染症の重症化とも大きく関連していました。CAR-T細胞療法でも新型コロナウイルス感染症でも、一度起こしたサイトカイン症候群の治療には、抗IL-6受容体抗体(Tocilizumab、アクテムラ®)を用いた対症療法しかありませんでした。

 今回、私たちはT細胞の補助刺激受容体2B4の機能を応用した新しいCARのモデルを検証しました。2B4は、条件の違いでT細胞の活性化と抑制化の両方「二相性」に働くスイッチング受容体であることが知られています。しかし、二相性として働く詳しいメカニズムは未だ解明されていませんでした。そこで、当研究グループがこれまで意欲的に行ってきた、がん細胞の細胞膜を模倣した人工平面脂質膜(SLB)と超解像顕微鏡を用いた独創的かつ先端的な1分子1細胞イメージングを用いて、CARへの応用も見据えた、2B4機能の分子メカニズムの解明に取り組みました。



【本研究で得られた結果・知見】
 今回、2B4のリガンドであるCD48を組み入れた「人工平面脂質二重膜」を新たに作成し、2B4を発現しているT細胞を二重膜の上にのせ、2B4の挙動を1分子レベルでイメージング解析しました。T細胞は数分をかけて脂質二重膜に接着し、その接着面に連続的に形成される、CD48との結合を機に2B4分子が数十個集まったクラスターが観察されました(図1)。

 2B4のクラスターは、抗原ペプチドが結合した主要組織適合性複合体(pMHC)との結合を機にできるTCRの凝集「TCRマイクロクラスター」と同じ位置に形成され、さらに脂質脱リン酸化反応を担う酵素(フォスファターゼ)SHIP-1を呼び寄せることが分かりました(図2上段)。この抑制性シグナルの挙動がT細胞の機能にどう影響を与えているのか実験したところ、T細胞ががん細胞を攻撃する細胞障害活性には差は見られなかった一方(図2左下段)、T細胞からのサイトカイン産生が抑制されることが分かりました(図2中下段)。

 続いて、2B4のアダプター分子であるSAPを2B4と同時にT細胞に発現させてイメージング解析を行いました。その結果、2B4マイクロクラスターと同じ位置でSAPはクラスターを作り、さらに、チロシンリン酸化酵素であるFynも同様にクラスターを形成するようになりました(図3左上段、左中段)。一方で、先ほど集積が見られたSHIP-1の集積が見られなくなることが分かりました(図3左下段)。つまり、SAPが2B4に結合すると、1) FynがSAPを介して2B4にリクルートされる、2) SHIP-1が2B4に集積できなくなる、ことで活性化のシグナル複合体を形成するようになることが確認されました。この結果、サイトカイン産生が増えることも分かりました(図3中)。

 これらの2B4の二相性の特徴をCAR-T細胞療法に活かすことができないかと考え、CARの共刺激ドメインに2B4とCD3ζを組み込んだ、2B4.ζ-CARを新しく作製しました(図4上段)。2B4.ζ-CARを発現させた2B4.ζ-CAR-T細胞は、その標的分子であるCD19と結合すると、CARマイクロクラスターを形成しました(図4中段)。2B4.ζ-CARマイクロクラスターの下流では、先ほどの2B4のイメージング解析で見られたシグナル伝達機構が同様に働くことが確認されました(図4左下段、右下段)。

 続いて既存の3種類のCAR(ζ-CAR、CD28.ζ-CAR、4-1BB.ζ-CAR)と比較して、2B4.ζ-CAR-T細胞の機能解析を行ったところ、予想通り、抗腫瘍効果は変わらない(図5左上)一方で、他種類のCARよりもサイトカイン産生量が少なくなっていることが分かりました(図5右上)。この結果は、実際にマウスにCAR-T療法を行ったin vivoの実験においても同様であることを私たちは確認しました(図5下)。これらの結果から、2B4.ζ-CARはCAR-T細胞療法の重大な副作用であるサイトカイン症候群を回避できる可能性があると考えられました。

【今後の研究展開および波及効果】
 2B4は、がん免疫だけでなく自己免疫など幅広い場面において、T細胞の機能調節を担っており、それらの疾患との関連性が示唆されています。生理学的、総論的に2B4がT細胞においてどのような仕組みでどのような機能を果たしているのか、分子の特徴を知ることは、各疾患における病態の解明、さらに治療法の開発において非常に重要であると考えられます。さらに理解を深め、実臨床に直結させるために、今後はヒトの細胞を用いた研究に繋げていくことが必要とされます。また、今回研究した2B4. ζ-CARは、現在保険適応となっている4-1BB. ζ-CARやCD28.ζ-CARなどに加えた、新たなCARの候補になりうることが示唆されました。例えば、高齢患者や基礎疾患の多い患者など副作用が懸念されるケースに対するCAR-T療法の治療選択肢を広げることが期待されます。また、今後の研究展開として、2B4の二相性の特徴を利用し、2B4.ζ-CAR-T細胞にSAPを誘導的に発現させることで、抗腫瘍効果やサイトカイン産生をコントロールできるCARの創造も期待されます(図6)。

【論文情報】
タイトル:Imaging of biphasic signalosomes constructed by checkpoint receptor 2B4 in conventional and CAR-T cells
著  者:Ryohei Matsushima, Ei Wakamatsu, Hiroaki Machiyama, Wataru Nishi, Yosuke Yoshida, Tetsushi Nishikawa, Hiroko Toyota, Masae Furuhata, Hitoshi Nishijima, Arata Takeuchi, Makoto Suzuki, Tadashi Yokosuka*
(*責任著者)
掲載誌名:iScience
DOI :10.1016/j.isci.2024.111669

【用語の解説】
*1:T細胞補助刺激受容体
T細胞受容体(TCR)からのシグナルを強めたり弱めたりする補佐的な受容体。T細胞上には数多くの補助刺激受容体が存在する。例えば、その一つであるPD-1は、リガンドであるPD-L1/PD-L2と結合することで、TCRからの刺激を抑制し、T細胞の活性を抑える。近年、注目を浴び続けている免疫チェックポイント阻害療法は、この結合を阻害することで、疲弊状態に陥っていたT細胞のPD-1抑制シグナル(T細胞へのブレーキ)を解除し、抗腫瘍効果を復活させる治療である。

【主な競争的研究資金】
本研究は、文部科学省基盤研究(JP25113725, JP15H01194, JP16H06501, JP17H03600, JP19K22545, JP20H03536, JP23H02775)、さきがけ慢性炎症(U1114011)、新学術領域「ネオ・セルフ」(JP16H06501)、学術変革A「自己指向性免疫」(JP23H04790)、「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(S1511011)、内藤記念科学振興財団、武田科学振興財団の支援を受けています。


▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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