【東京医科大学】筋核の形態が改善しても筋疾患は進行する ~エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー病態メカニズム解明への新展開~
東京医科大学
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)病態生理学分野 和田英治講師と林由起子主任教授らの研究グループは、核膜関連タンパク質*¹の異常によって起こる筋核の変形や筋の萎縮が骨格筋線維タイプによって異なることを突き止めました。
この研究成果は2025年5月10日、米国実験生物学会連合の国際学術誌「The FASEB Journal」に掲載されました。
【概要】
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)病態生理学分野 和田英治講師と林由起子主任教授らの研究グループは、核膜関連タンパク質*¹の異常によって起こる筋核の変形や筋の萎縮が骨格筋線維タイプによって異なることを突き止めました。さらに人為的に筋再生を促したところ、本疾患の特徴である筋核の形態は改善するものの、DNA損傷の蓄積やミトコンドリア機能の低下が見られ、筋萎縮・筋障害も進行することを見出しました。本研究成果は今後、核膜病における骨格筋や心筋の病態メカニズムの解明につながることが期待されます。
この研究成果は2025年5月10日、米国実験生物学会連合の国際学術誌「The FASEB Journal」に掲載されました。
【本研究のポイント】
● 核膜タンパク質の異常により骨格筋の核は著しく変形する
● 筋核の異常と筋萎縮症状は骨格筋の中でも遅筋線維に優先的に起こる
● モデルマウスの骨格筋を人為的に損傷させ、筋再生を促すことで筋核の形態は正常化する
● 筋核の形態が改善しても、筋萎縮・筋障害は進行する
● DNAダメージやミトコンドリアの機能低下は筋核の形態異常とは独立して起こる可能性がある
【研究の背景】
核はリン脂質二重膜で覆われており、固有の機能をもつ核膜関連タンパク質が多数局在しています。この核膜関連タンパク質に異常が生じて引き起こされる疾患群を「核膜病」と呼びます。興味深いことに核膜関連タンパク質の異常は骨格筋疾患、心疾患、神経疾患、代謝性疾患、早老症など、きわめて多彩な疾患を引き起こします。中でもエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(EDMD)は骨格筋や心筋が障害される病気であり、主要な原因として核ラミナを構成するA型ラミンの異常や核内膜タンパク質であるエメリンの欠損が挙げられます。未だ発症メカニズムが分かっておらず、有効な治療法も確立されていません。
これまでに主な病態メカニズムの仮説として、➀核の構造的異常によるDNA損傷の蓄積、②遺伝子発現変化による恒常性の破綻、③骨格筋幹細胞*²の異常が考えられています。核の形態が異常になる(変形する)ことは核膜病の最も顕著な特徴であり、EDMD患者やモデルマウスの骨格筋と心筋でも核の形態異常が認められることから、核の構造や形態異常が筋病態へ関与することが示唆されていますが、詳細はよく解かっていません。
【本研究で得られた結果・知見】
我々はこれまでにA型ラミン変異とエメリン欠損を合わせた二重変異(EH)マウスを用いて、特にEDMDにおける骨格筋病態メカニズムの研究を行ってきました。今回、単一筋線維を用いた観察の結果、筋核の形態異常は遅筋線維(Type 1)で選択的に起こり、速筋線維(Type 2)では認められないことが分かりました。また、筋萎縮の症状もType 1線維で優先的に認められました。次に、遅筋線維の代表であるヒラメ筋にヘビ毒であるカルジオトキシンを投与し人為的に筋壊死を引き起こした結果、EHマウスは野生型マウスと同様の筋再生能すなわち骨格筋幹細胞の機能を保持していることが分かりました。また、筋再生6週間後では筋核の形態が改善し、筋線維径や筋張力の回復も認められましたが、筋再生18週間後には筋核の形態は比較的よく保たれているにも関わらず筋障害が進行していることを突き止めました。
EHマウス骨格筋ではミトコンドリアの酵素活性や関連遺伝子の発現が低下しますが、筋再生6週間後では野生型マウスと同程度まで回復しました。しかし18週間後には顕著に低下していました。このことから筋病態の一時的な回復とその後の進行に関して、ミトコンドリア機能が重要な役割を担うことを明らかにしました。一方、筋再生6週間後に筋核形態や筋病理、筋機能が改善したにも関わらず、骨格筋内のDNA損傷関連遺伝子の発現は亢進し続けていました。すなわち、筋病態が進行する要因に、筋核の形態とは独立して過剰なDNAダメージを受ける機構が関与することを示唆しました。
【今後の研究展開および波及効果】
EDMDをはじめ核膜病の病態メカニズムは未だ解明されておらず、治療法も確立されていません。その背景に、「核膜病ではなぜ組織特異的に障害が起こるのか」という最大の謎があります。本研究により核膜病における骨格筋障害が筋線維タイプによって異なり、核形態の変化、DNA損傷への感受性、ミトコンドリアの恒常性維持機構という要素が深く関与することが分かりました。この研究成果は、詳細な筋病態メカニズムの解明や核膜関連タンパク質の組織特異的な役割への理解につながることが期待されます。
【論文情報】
タイトル:Nuclear deformities minimally affect fiber-type-specific disease progression in murine models of nuclear envelope myopathy
著 者: Eiji Wada, Nao Susumu, Yukiko K. Hayashi*(*:責任著者)
掲載誌名:The FASEB Journal
DOI:
https://doi.org/10.1096/fj.202500288R
【主な競争的研究資金】
本研究は文部科学省基盤研究(JP18K15052、20H03594)、AMED難治性疾患等実用化研究事業(23ek0109639h0001, 24ek0109639h0002)、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(29-4, 2-5, and 5-6)、東京医科大学研究助成の支援を受けて行われました。
【用語の解説】
*1 核膜関連タンパク質
核ラミナを構成するA型/B型ラミン、核膜タンパク質、核膜孔タンパク質、核と細胞質をつなぐネスプリンなど300種類以上が同定されている。組織によって発現が異なることが知られているが、機能が解明されていないタンパク質も多い。
*2 骨格筋幹細胞
骨格筋特異的な幹細胞であり、筋衛星細胞(サテライト細胞)とも呼ばれる。筋ジストロフィーや激しい運動などで筋線維が損傷すると骨格筋幹細胞が活性化して、新しい骨格筋線維を作りだす。
【病態生理学分野HP】
https://tokyo-med-pathophysiol.jimdofree.com/
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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