芝浦工大が安全・安価なフッ化カリウム由来の新規フッ素化剤の簡便合成法を開発〜吸湿性が低く長期保存可能な新規フッ素化剤を実現〜
芝浦工業大学
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・田嶋稔樹教授(有機電気化学研究室)ら研究チームは、最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つであるフッ化カリウム(KF)から新規フッ素化剤として期待されるテトラブチルアンモニウムフルオリド誘導体(Bu₄NF(HFIP)₃錯体)を簡便かつ高効率で合成する手法の開発に成功しました。また、合成したBu₄NF(HFIP)₃錯体は吸湿性が極めて低く、長期保存可能で取り扱い容易なフッ素化剤であることが明らかになりました。
KFは最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つとして知られていますが、ほとんどの有機溶媒に難溶であることから、フッ素化反応への利用は限られていました。これに対し、本研究ではKFがフッ素化アルコールに特異的に溶解する特徴を利用して、KFからBu₄NF(HFIP)₃錯体を簡便かつ高効率で合成する手法を開発しました。
また、無水Bu₄NFは最も反応性の高いフッ素化剤の一つとして知られています。しかし、嵩高いテトラブチルアンモニウムイオン(Bu₄N⁺)の対イオンであるフッ化物イオン(F⁻)は高い反応性を示す一方で、高い吸湿性によってその反応性が著しく低下します。これに対し、本研究で合成したBu₄NF(HFIP)₃錯体は吸湿性が低く、長期保存が可能でした。さらに、Bu₄NF(HFIP)₃錯体を支持塩兼フッ素化剤として、有機化合物の電解フッ素化に利用可能であることが明らかになりました。
※この研究成果は、国際学術誌Chemical Communicationsオンライン版に掲載されています。また、同誌の61巻42号の表紙に選出されました。
■ ポイント
・ 安全・安価なKFから新規フッ素化剤であるBu₄NF (HFIP)₃錯体を簡便かつ高効率で合成する手法を開発
・ Bu₄NF (HFIP)₃錯体は吸湿性が極めて低く、長期保存可能
・ Bu₄NF (HFIP)₃錯体は支持塩兼フッ素化剤として電解フッ素化に利用可能
■ 研究の背景
有機フッ素化合物は、医薬品、農薬、機能性材料、さらには陽電子放出断層撮影(PET)など多様な分野で利用されています。しかし、有機フッ素化合物は天然にはほとんど存在せず、必要に応じて合成する必要があります。有機フッ素化合物の合成にはフッ素化剤が必要となることから、これまでに様々なフッ素化剤が開発されてきました。しかし、多くのフッ素化剤は毒性、腐食性、爆発性などを有し、非常に高価であることが課題となっていました。これに対し、最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つであるKFが注目されていますが、ほとんどの有機溶媒に難溶であることがその利用を大きく制限してきました。一方、最も反応性の高いフッ素化剤の一つとして無水Bu₄NFが知られていますが、吸湿性が高いためにその反応性が大きく低下するという課題がありました。そのため、安全・安価かつ反応性の高いフッ素化剤の開発が強く望まれていました。
■ 研究の概要
本研究では、KFがフッ素化アルコールの一つである1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に特異的に溶解することに着目し、HFIP中でテトラブチルアンモニウムブロミド(Bu₄NBr)とのイオン交換反応を行うことで、簡便かつ高効率で新規フッ素化剤であるBu₄NF (HFIP)₃錯体を合成することに成功しました。また、Bu₄NF (HFIP)₃錯体は極めて吸湿性が低く、合成後3ヵ月が経過してもほとんど吸水していませんでした。さらに、Bu₄NF (HFIP)₃錯体を支持塩兼フッ素化剤として有機化合物の電解フッ素化に用いたところ、十分な反応性を示しました。
■ 今後の展望
本研究で得られたBu₄NF (HFIP)₃錯体は、新規フッ素化剤として医薬品、農薬、機能性材料、さらにはPET検査用分子プローブの合成などへの応用が想定されます。また、Bu₄NF (HFIP)₃錯体は、F⁻とHFIP間の水素結合を制御することで、その反応性と吸湿性のスイッチングが可能になるものと見込まれます。さらに、Bu₄NF (HFIP)₃錯体はフッ素化剤としてだけではなくイオン液体としての応用展開も期待されます。
■ 論文情報
著者:
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 本間 晴香
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 望月 愛華
芝浦工業大学工学部 4年 明戸 美沙樹
芝浦工業大学工学部 4年 髙橋 菜緒
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程修了 北島 庸貴
芝浦工業大学工学部 教授 田嶋 稔樹
論文名:Facile synthesis of R₄NF(HFIP)₃ complexes from KF and their application to electrochemical fluorination
掲載誌:Chemical Communications
DOI:10.1039/D5CC01341K
URL:
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/cc/d5cc01341k
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