建設・不動産分野における温室効果ガス削減貢献量
算定方法の素案を提案
~金融も含めた幅広い関係者からの意見を反映し、将来の投資判断の基準となる世界初の業界標準ガイドラインへの進展を目指す~
株式会社日建設計

株式会社日建設計(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大松敦、以下「日建設計」)は2024年6月に外部有識者や関係者から構成される「建設・不動産セクターにおける削減貢献量算定ガイドライン検討会」の設置を発案し、この度その成果を温室効果ガス削減貢献量算定方法の素案として提案しました。これは、将来における建設・不動産を対象とした世界初の削減貢献量に関するガイドラインの素案となり、建設・不動産分野におけるGX市場創出を加速化させる一助となることを期待した取組みです。
■「削減貢献量」が投資観点で注目 一方 建設・不動産ではガイドライン整備が遅れる
企業のGHG(温室効果ガス)排出量削減の取組みが重要な投資判断基準となりつつある中、各企業ともScope 1~3の削減に取り組んでいます。他方で近年新たな評価基準として、企業によるGHG排出量削減への貢献を企業の課題解決力として評価する「削減貢献量」が注目されています。削減貢献量とは、従来の製品・サービス(ベースライン)と新たな製品・サービス(ソリューション)のGHG排出量の差分です。
2024年11月開催COP29にてWBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)がGHGプロトコルでの採用検討開始を表明しているほか、各業界でも削減貢献量算出のためのガイドライン整備が進んでいます。
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従来のスコープ1、2、3のGHG排出量の考え方 GHG削減貢献量の考え方
一方で、建設・不動産分野では、建物の建設・運用に関わるステークホルダーの多さ、電機製品などに比べた使用期間の長さ、改修の発生、売却ではなく所有した状態での賃貸の存在、不動産は製品であるとともに一品生産のプロジェクトとしての性格も有することなどの理由から、算出が非常に複雑であり、ガイドラインの整備が遅れていました。
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建設・不動産と家電・消費財の違い
※エンボディドカーボン:建物の資材製造・新築施工・改修施工・解体時に発生するカーボン
オペレーショナルカーボン:建物の使用時のエネルギー消費、水消費によって発生するカーボン
■脱炭素化推進のため、ガイドライン検討会設置を発案・算定方法の素案を提案
日建設計はこれまで、設計事務所としての中立性を活かし、建築物のホールライフカーボン算定ツールの開発に貢献してきました。そうした中、削減に貢献する企業への投資を呼び込み、建設・不動産分野の脱炭素化をさらに推進するには、業界で統一された物差しによる削減貢献量評価の確立が不可欠と考え、2024年6月に「建設・不動産セクターにおける削減貢献量ガイドライン検討会」を発案・設置しました。建設・不動産に加え、投資判断に活用する金融関係者も委員に迎えた検討会で議論を重ね、2025年6月に「建設・不動産セクターにおける温室効果ガス削減貢献量算定方法(素案)」を作成し、業界・省庁に対して提案しました。これは同分野においては世界初の算定方法の素案となります。
この素案は、同分野における削減貢献量の考え方と算出方法を整理したものです。これにより適正な評価と、金融機関による投資判断の促進を通じて、業界全体でのCO₂削減が期待されます。
2025年度も検討会を継続し、この自主的な任意の取組み成果である素案を、多様なステークホルダーの意見を反映しながら、業界標準として機能する水準へのガイドラインへと更新を進めてまいります。今後、削減貢献量に関する議論はさらに進展が見込まれており、「ゼロカーボンビル(LCCO₂ネットゼロ)推進会議((一財)住宅・建築SDGs推進センター(IBECs))」などでも議論が活発化する見通しであり、今後こうした動きにも注目してまいります。
■削減貢献量について
・従来のGHG排出量指標(Scope1、2、3)との違い
Scope1~3は企業の排出量実績に基づき算定されます。一方、削減貢献量はモデル化したベースラインとの比較によって算定されます。建設・不動産分野においては建築物(ビル)を基本対象とします。ベースラインビルでなく、評価対象ビルが建設されたことで社会的に回避された排出量が持つプラスの貢献分に着目して算定します。これにより、そのビルを建設した企業の社会全体の排出量削減への貢献を評価することができます。
例えば、建設時や運用時のGHG排出を抑制したビルを建設すると、建設しなかった場合と比較して企業のScope1~3は増加します。しかし、この際に抑制したGHG排出量を削減貢献量として表すことで、GHG排出削減に意義があることを評価できます。
・既往の削減貢献量ガイドライン
海外ではWBCSD、国内では経済産業省、日本LCA学会、GXリーグのGX経営促進ワーキンググループが、削減貢献量に関するガイドラインや基本方針を発行しています。化学業界、電機業界、ガス業界などでは、すでに業界別の算定ガイドラインが存在します。本素案は、既往のガイドラインを参考にしつつ、建設・不動産分野の特性を考慮して策定しています。
※「Guidance on Avoided Emissions」 (WBCSD、2023年3月)
https://www.wbcsd.org/resources/guidance-on-avoided-emissions-helping-business-drive-innovations-and-scale-solutions-towards-net-zero/
※「温室効果ガス排出削減貢献量ガイドライン第2版」(日本LCA学会環境負荷削減貢献量評価手法研究会、2022年3月)
https://www.ilcaj.org/assets/doc/kenkyukai/01/guideline_ver2_.pdf
※「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」(GXリーグ/GX経営促進ワーキンググループ、2023年3月)
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXLeague_guidance_jp.pdf
※「電子部品のGHG排出削減貢献量算定に関するガイダンス 第2版」(一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)、2022年7月)
https://home.jeita.or.jp/page_file/20220701162523_3HEcgdX8Ym.pdf
■建設・不動産セクターにおける温室効果ガス削減貢献量算定方法(素案)の概要
1.主張の適格性:「企業の適格性」と「ソリューションの適格性」の要件を定義した。
1)不動産の省エネルギー性能やレジリエンス機能やウエルネス性能を悪化させてはならないことなどを明記した。
2.削減貢献量の算定方法:「定量化の対象」「ベースラインの設定」「評価範囲」「算定のアプローチ」を定義した。
1)定量化の対象:新築または改修を行う場合の不動産のライフサイクルにおける温室効果ガス(オペレーショナルカーボンとエンボディドカーボンの両方)の削減貢献量を対象とした。ベースライン及びソリューションの算定はJ-CATⓇ等を使って行う。
(J-CATは、(一財)住宅・建築SDGs推進センターの登録商標です)
2)ベースラインの設定:新築の場合は従来型の不動産を、改修の場合は、不動産の改修を行わないまま使用し続けた場合をベースラインとして設定した。ただし、詳細については今後も継続検討が必要である。
3)評価範囲:新築の場合は、不動産の建設段階と使用段階を、改修の場合は、改修段階から次の改修の直前までの使用段階とし、いずれも不動産の解体段階は含まない。なお、評価期間については、新築もしくは改修から次の改修までの期間を想定し、原則20年とした。
4)算定のアプローチ:原則として販売用不動産には完成時に将来分も含めて一括計上するフォワード・ルッキング・アプローチを、賃貸用不動産には年ごとの実績を反映できるイヤー・オン・イヤー・アプローチを適用することが望ましいとした。なお、寄与率については、現時点において国際的に合意された考え方が無いことから、本素案では扱っておらず、継続検討とした。
3.企業単位の削減貢献量:企業単位の削減貢献量を算定する場合は、企業がその1年に実施する全てのソリューションを、削減貢献量がマイナスになるソリューションも含めて合計して評価を行うとした。
4.検証・報告:算定結果については、第三者による検証(内部検証を含む)を実施することが望ましいとした。また検証実施の有無、実施した場合には検証実施者及びその内容を明確にすることが望ましいとした。
※「建設・不動産セクターにおける温室効果ガス削減貢献量算定方法(素案)」:
https://www.nikken.co.jp/ja/dbook/20250618_draft_calculation_methods_for_avoided_emissions_in_building_construction_and_real_estate_sector.pdf
■削減貢献量算定事例
日建ビル1号館改修(2025年):
築57年の築古ビルに対して、LED照明や空調効率化、断熱性向上など汎用性の高い技術を組み合わせた環境改修「ゼノベ」で、ZEB Ready認証を取得したプロジェクトです。試算では、改修工事における低炭素コンクリートや電炉鋼、低GWP冷媒などの採用によりエンボディドカーボンを760トンCO2e に抑制し、省エネ化でオペレーショナルカーボンを1,270トンCO2e 削減することで、20年間の削減貢献量が510トンCO2e になることを示しています。なお、改修ではなく、解体・新築の場合をベースラインとすると、削減貢献量はさらに大きくなります。
※「“ゼノベ”プロジェクト 築57年の日建ビル1号館、環境改修を竣工― ZEB Readyを実現する「環境性能と投資経済性を両立した改修モデル」を検証―」(日建設計、2025年4月)
https://www.nikken.co.jp/ja/news/press_release/2025_04_08.html
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■投資判断への効果
2024年10月にみずほフィナンシャルグループ、2025年3月に野村ホールディングス株式会社が、削減貢献量に関するレポートを相次いで公表するなど、金融分野において企業評価や投資判断における削減貢献量の活用への期待が高まっています。
本素案に対し建設・不動産に加え金融も含めた幅広い関係者からの意見を反映し、業界標準となるガイドラインへ更新することにより、建設・不動産関連企業への適正な資産評価・投資判断を促進し、結果として同分野全体でのCO₂削減が期待されます。
※「〈みずほ〉削減貢献量フォーカスレポート」(株式会社みずほフィナンシャルグループ、2024年10月)
https://www.mizuho-rt.co.jp/company/release/2024/page_0018/index.html
※「投資家はこう見ている―削減貢献量を企業価値向上につなげるには―」(野村ホールディングス株式会社、2025年3月)
https://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20250310/20250310_a.html
<株式会社日本政策投資銀行 アセットファイナンス部長 辻 早人氏(ガイドライン検討会 委員) の コメント>
GHG排出量の算定及び開示範囲がサプライチェーン(Scope3)に拡大する中において、「削減貢献量」は、社会の脱炭素化に向けた取り組みを進めつつ、企業の健全な事業活動と産業競争力の強化及び、必要な社会資本の維持、更新の両立に繋がる重要な概念と捉えております。
金融面でも、「削減貢献量」は、投融資先企業の気候関連の機会及びリスクの評価、インパクト投資、サステナブルファイナンス等の指標として、金融機関や投資家からも注目されています。また、弊行も参加している「ゼロエネルギーリノベーションプロジェクト(=「ゼノベ」)では、実際の不動産ファンド投資における、「削減貢献量」の計測を実施しており、既存ビルの環境性能向上と投資リターンの両立を目指しているところです。今回の「素案」公表を契機に、建設・不動産セクターにおける「削減貢献量」の算出方法と考え方の整理が進むことで、社会の脱炭素化に大きく寄与するものと考えます。
■「建設・不動産セクターにおける削減貢献量ガイドライン検討会」の委員構成
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■日建設計について
日建設計は、建築・土木の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を行うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120余年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えするため、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで日本、中国、ASEAN、中東で様々なプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。
本件に関するお問合わせ先
株式会社⽇建設計 広報室 TEL:03-5226-3030(代表) E-mail:webmaster@nikken.jp




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