2026年05月22日
今回のニュースのポイント
厚生労働省が22日発表した3月の実質賃金は前年同月比1.4%増と2カ月連続のプラスを記録し、同日公表の4月消費者物価指数(CPI)も1.4%上昇に鈍化するなど統計上は好転しています。しかし、食料品や通信費など「毎日払う生活必需コスト」の高止まりから、家計の実感とのズレは根強い状況です。本稿ではマクロ統計と生活実感が乖離する構造的要因を解き明かし、インフレ定着時代の新しい家計防衛戦略を解説します。
本文
手取りの給与が増え、物価の勢いも一時期に比べて落ち着いてきているにもかかわらず、多くの家計が潤いを実感できない背景には、まず「平均値としての統計」と「過去の蓄積」のギャップがあります。3月の毎月勤労統計によると、基本給や手当を含む現金給与総額(名目賃金)は31万8,563円で前年同月比3.1%増、賞与などを除く所定内給与も27万2,171円で3.4%増と、名目ベースの賃金は比較的力強い伸びを維持しています。
これに4月のCPI総合1.4%上昇という物価の鈍化が合わさることで、実質賃金は前年比でプラスに転じているのは事実です。しかし、現在の実質賃金指数(2020年=100換算)の水準そのものを見ると、現金給与総額ベースで87.1という低い位置にとどまっています。つまり、現在の改善は「生活が豊かになった」というより、「急激な悪化がようやく止まり始めた」段階に近いと言えます。過去数年間で失われた購買力を完全に取り戻したわけではなく、多くの家計はいまだ“マイナスの埋め戻し”の途中にあります。
さらに、生活実感を苦しくさせている要因は、値上がりしている物価の「中身」にあります。4月のCPIの内訳を詳しく分析すると、総合指数の1.4%上昇という全体の落ち着きに対し、日々の生活で頻繁に購入する食料工業製品(生鮮食品を除く食品)は前年同月比で4.9%も上昇しており、物価全体を大きく押し上げる要因であり続けています。
また、一般サービスのなかでも「外食」が前年比3.9%上昇、スマートフォン料金などを含む通信関連サービスも3.9%上昇と、固定費や準固定費に近い生活密着型の品目の値上がりが目立っています。実際、人は自動車や家電のように頻繁に買わないものよりも、スーパーでの食料品や通信料金など「毎日払うもの」で物価を強く実感する傾向があります。マクロ統計上はエネルギー価格の変動などで全体のインフレ率が下がって見えても、毎日の生活必需コストが確実に高止まりしていることが、家計への持続的なプレッシャーとなっています。
このような状況に対し、日本人の多くが強い心理的負担を覚えるのは、私たちが長年経験してきた「物価は上がらないもの」というデフレの前提がまだ脳裏に焼き付いているからでもあります。バブル崩壊以降の四半世紀にわたり、日本では「100円コーヒー」や「ワンコインランチ」に代表される据え置き価格が当然の日常であり、家計の予算も値札が変わらないことを前提に構築されてきました。
そのため、コーヒーの10円ずつの値上げや、チョコレートの数十円の上昇、スマートフォンの定額プランの改定といった小さな変化であっても、消費者の受ける心理的なショックは想定以上に大きくなります。「値上がりし続ける社会」へのマインドセットの切り替えが追いついていないことが、統計以上の閉塞感を生む要因となっています。
こうしたインフレの定着は、これまでの「現金を預金口座に寝かせておけば安全である」という、日本社会で長年信奉されてきた「貯金が安心」という常識をも静かに揺るがしています。仮に消費者物価指数が毎年2%ずつ上昇を続けると、現在の手元にある100万円の実質的な購買力は、5年後には約90万円台前半に、10年後には約82万円程度へと目減りしていくことになります。
4月のCPI総合は1.4%、生鮮食品およびエネルギーを除く総合(コアコア物価)は1.9%の上昇となっており、物価の上昇率がゼロにならない限り、ただ現金を貯金しているだけでは資産の価値が目減りし続ける構図から逃れることはできません。こうした現実に直面し、とくに将来への可処分所得の伸びに危機感を抱く若い世代ほど、「ただお金を寝かせておくことへの不安」を強く感じるようになっています。
その反動として、現在の若い世代を中心とした現役層の間では、単に高リスクな投資で一獲千金を狙うのではなく、インフレによる購買力の低下から資産の実質的な目減りを抑えるための「生活防衛型投資」への関心が広がっています。新NISAの制度を活用した世界株(オルカン)への積立投資や、少額から始められる高配当株投資、さらには日々の買い物で貯まったポイントを原資とするポイント運用やゴールド(金)への分散投資など、無理のない範囲で資産の目減りを防ぐ行動が日常に溶け込みつつあります。
昔の世代にとっての資産形成が「守りの貯金」であったのに対し、現代の現役世代にとっては、少額であっても「増やしながら守る」という発想が、未来の生活の安定を確保するための標準的な選択肢へと変わり始めていると言えます。
長年にわたり、日本の家計は物価高や負担増に直面するたび、毎月の支出を削る「節約」によって危機を乗り切ってきました。しかし、食料品や固定費の値上げが常態化し、同時に社会保険料や税負担がじりじりと重くなる現代の局面においては、電気を消し、食費を切り詰めるだけの手法ではコストの上昇スピードに到底追いつきません。
これからのインフレ社会における本当の生活防衛とは、支出を減らす工夫にとどまらず、名目で増え始めた賃金という収入の原資や、新NISAなどを通じた資産の側にも自ら働きかけ、インフレ率以上の価値を維持していく「前向きな家計戦略」を構築することにほかなりません。実質賃金がプラスへ転じたという今回の改善のサインは、家計が楽になったことの証明ではなく、私たちが長く慣れ親しんできた貯金前提のデフレ型ライフスタイルを脱却し、収入と資産の両面から備える新しい経済感覚へと移行すべき「物価が上がり続ける社会」への転換を示しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)
実質賃金プラスでも豊かさ遠く 勤労統計が映す“日本型賃上げ”
頑張っても楽にならない社会 会社員と企業に広がる「余裕の消失」
記事提供:EconomicNews
とれまがニュースは、時事通信社、カブ知恵、Digital PR Platform、BUSINESS WIRE、エコノミックニュース、News2u、@Press、ABNNewswire、済龍、DreamNews、NEWS ON、PR TIMES、LEAFHIDEから情報提供を受けています。当サイトに掲載されている情報は必ずしも完全なものではなく、正確性・安全性を保証するものではありません。当社は、当サイトにて配信される情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。
Copyright (C) 2006-2026 sitescope co.,ltd. All Rights Reserved.
![]()