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低侵襲な「鼻のブラッシング」で好酸球性副鼻腔炎の病型分類に成功

学校法人慈恵大学

低侵襲な「鼻のブラッシング」で好酸球性副鼻腔utf-8

―個別化治療の実現に向けた新たな一歩―

東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部の廣田朝光准教授、玉利真由美教授、同大学耳鼻咽喉科学教室の中島大輝大学院生、鴻信義教授、小島博己教授、獨協医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学の中山次久教授らの共同研究グループは、患者に負担の少ない「鼻腔ブラッシング検体」を用いて遺伝子の働き(活動)をまとめて調べる解析を行い、好酸球性副鼻腔炎の患者を病気の特徴ごとにグループ分けが可能であることを見出しました。本研究により、外来での負担が少ない方法で、術後再発のリスクや病気の重症度を評価できる可能性が示されました。
本研究の成果は、Allergy誌に2026年1月21日付けで掲載されました。

背景
好酸球性副鼻腔炎は2001年に東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 講師(当時)の春名、同講座 教授(当時) の森山らによって提唱された難治性の副鼻腔炎の疾患概念です。従来の治療法に抵抗性を示すことが多く、手術を行っても約半数の症例で再発することが課題となっています。近年では、デュピルマブ (抗IL-4Rα抗体) に加え、様々な生物学的製剤が登場し、治療の選択肢が大きく広がっています。一方で、患者ごとに治療効果や予後にばらつきがあることから、どの治療法が最適かを見極めるための病態に基づいた詳細な層別化 (エンドタイピング) の必要性がますます高まっています。

研究の内容
本研究では、2022年から2025年にかけて、東京慈恵会医科大学において好酸球性副鼻腔炎患者から、手術で採取される鼻茸 (ポリープ) 組織と、鼻腔内を軽くこするだけで採取できるブラッシング検体をそれぞれ収集し、遺伝子の働きを網羅的に調べる解析 (次世代シーケンスを用いたRNA解析) を行いました。その結果、患者への負担が少ないブラッシング検体を用いた方法の方が、再発しやすい症例やデュピルマブ治療を受けた症例をより正確に分類できることが明らかになりました。

研究の意義
本研究により、手術を必要とせず、外来でも実施可能で、患者への負担が少ないブラッシング検体を用いた遺伝子解析方法が、好酸球性副鼻腔炎の病型分類 (エンドタイピング) に有用であることが示されました。本手法は、将来的にブラッシング検体による病態評価を通じて、最適な生物学的製剤の選択を含む個別化医療の実現に貢献することが期待されます。

今後の展望
今後は症例数を増やして臨床現場での活用を目指すとともに、海外の研究機関とも連携し、国際共同研究を通じて本手法の有用性をさらに広く検証するとともに、疾患の病態解明を進めていきます。

【研究の詳細】
1. 背景
 慢性副鼻腔炎 (chronic rhinosinusitis: CRS)*1は不均一性の高い疾患であり、その中でも好酸球性副鼻腔炎 (eosinophilic CRS: ECRS) は、喘息を合併することも多く、一部は重症化して治療抵抗性を示すことが知られています。包括的かつバイアスの少ない遺伝子発現情報を取得できるトランスクリプトーム解析*2は、CRSの病態の不均一性やエンドタイプ*3の解明に大きく寄与してきました。
 これまでの多くの遺伝子発現解析研究は、手術時に得られる鼻茸組織を対象として行われてきました。しかし、組織検体には多種多様な細胞が混在するため、上皮が主体となる炎症病態が必ずしも明確に反映されない可能性があります。一方、鼻粘膜ブラッシングは、低侵襲に主に上皮細胞を回収できる検体採取法として、近年CRS研究への応用が進んでいます。特に、ECRSに密接に関連する2型炎症*4の病態を、低侵襲なブラッシング検体で評価できるかを明らかにすることは、ECRSの病態解明や個別化医療の実現に向けて重要と考えられます。

2. 研究方法
 本研究では、ECRS患者21例と、非CRS群(対照群)11例を対象としました。ECRS患者群からは鼻茸組織検体および鼻粘膜ブラッシング検体を、対照群からは副鼻腔粘膜組織検体および鼻粘膜ブラッシング検体をそれぞれ収集しました。各検体から抽出したRNAを用いてRNA-Seq解析*2を実施し、検体の種類 (組織、ブラッシング) ごとに、ECRS患者群と対照群の間で発現変動遺伝子 (differentially expressed genes:DEGs)*5 を同定しました。各検体における上位100遺伝子のDEGsを用いて階層的クラスタリングを行い、トランスクリプトームに基づくエンドタイプを同定しました。得られたクラスターと、術後再発、喘息合併、NSAIDs不耐症*6、デュピルマブ*7治療などの臨床的特徴との関連を解析しました。

3. 結果・成果
 ECRS患者群と対照群の比較において、組織検体では2,285遺伝子、ブラッシング検体では547遺伝子のDEGsが同定され、そのうち250遺伝子は各検体で共通した発現変動を示しました (図1)。

[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2670/128159/300_86_20260212101450698d298ab13c1.png

図1 各検体 (組織検体、ブラッシング検体) におけるECRS患者群と対照群の間での発現変動遺伝子

DEGsのエンリッチメント解析*8では、ブラッシング検体において低酸素応答関連遺伝子セットの有意なエンリッチメントが認められ、ECRSの症状である鼻閉を反映している可能性が示されました。
 これまでに報告されている1型、2型、3型炎症*4関連バイオマーカー*9遺伝子を解析したところ、2型炎症関連遺伝子はECRS患者群において有意に発現上昇しており、組織検体およびブラッシング検体の両方で高い割合で検出されました (図2)。

[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2670/128159/300_71_20260212101526698d29aeec11b.png

図2 発現変動遺伝子と1型、2型、3型炎症関連バイオマーカーの重複

 各検体における上位100遺伝子のDEGsを用いた階層的クラスタリング*10により、組織検体およびブラッシング検体の両方で、3つの分子クラスターが同定されました。ブラッシング検体では、2型および3型炎症関連遺伝子の高発現を特徴とするクラスター (BC2, BC3) に、術後再発例、NSAIDs不耐症例、デュピルマブ治療例が集中的に分類されました。一方、組織検体に基づくクラスター分類では、これらの臨床的特徴との明確な関連は認められませんでした (図3)。

[画像3]https://digitalpr.jp/simg/2670/128159/300_183_20260212101550698d29c6c981c.png

図3 上位100発現変動遺伝子とデュピルマブ関連遺伝子*11のクラスタリング解析

 さらに、これまでに報告されているデュピルマブ関連28遺伝子の解析では、ブラッシング検体において、2型関連遺伝子の高発現群・低発現群の2群に分類され、高発現群にはNSAIDs不耐症、術後再発、デュピルマブ治療例がすべて含まれていました (図3)。
 これらの結果から、ブラッシング検体を用いた解析により、重症で2型炎症優位のECRSを分子レベルで識別し、治療選択に役立てられる可能性が示されました。

4. 今後の応用、展開
 現在、1つの疾患として扱われているECRSに対して、低侵襲な鼻粘膜ブラッシングを用いたエンドタイプ分類を行い、エンドタイプ別に病態解明を進めることで、重症化メカニズムの解明や治療標的分子の同定、さらには最適な治療法の選択につながる検査手法の開発へと発展する可能性があります。


5. 脚注、用語説明
*1 慢性副鼻腔炎:
鼻や副鼻腔に炎症が長く続き、鼻の中にポリープ (鼻茸) ができることのある疾患です。鼻づまりや嗅覚低下などの症状が続くことがあります。

*2 トランスクリプトーム解析、RNA-Seq解析:
細胞や組織の中でどの遺伝子が、どれくらい働いているかをまとめて調べる方法です。疾患の状態や体の変化を、遺伝子の活動パターンから理解するために使われます。トランスクリプトーム解析の1つの手法にRNA-Seq解析があります。

*3 エンドタイプ:
分子レベル (遺伝子、タンパク質、細胞など) での病態 (原因・機序) に基づいた疾患の分類です。見た目や症状が似ていても、エンドタイプごとに、より適切な治療が異なる場合があります。

*4 1型、2型、3型炎症:
免疫による炎症反応は、原因や仕組みの違いによって1・2・3型に大きく分けることができます。2型炎症は、アレルギー反応に関わる炎症で、好酸球などが関与し、アレルギー疾患で重要な役割を果たすと考えられています。

*5 発現変動遺伝子 (DEGs):
例えば、疾患のある状態とない状態などを比較した際に、一定の基準以上に働き方 (発現量) が変化した遺伝子のことを指します。どの遺伝子が疾患に関与しているかなどを知るために用いられます。

*6 NSAIDs不耐症:
解熱鎮痛薬 (NSAIDs) を使用すると、喘息発作や鼻症状の悪化などの強い副作用が起こる体質のことです。特に喘息や慢性副鼻腔炎をもつ人でみられることがあります。

*7 デュピルマブ:
炎症やアレルギー反応に関わるIL-4受容体を阻害することにより、免疫の過剰な働きを抑える生物学的製剤です。喘息や慢性副鼻腔炎などにおいて、従来の治療で十分な効果が得られない重症例に用いられます。

*8 エンリッチメント解析:
ある遺伝子のリストにおいて、特定の働きや生物学的特徴を持った遺伝子が偏って含まれているかを調べる方法です。その結果から、疾患の背景にある仕組みを理解する手がかりが得られます。

*9 バイオマーカー:
体の状態や疾患の有無・重症度を客観的に示す目印となる指標です。血液や組織中の物質などを測定することで (今回は遺伝子転写産物であるRNAの量)、診断や治療効果の判断に役立ちます。

*10 階層的クラスタリング
データの似ているもの同士を、段階的にまとめていく解析方法です。今回の場合では、遺伝子の発現パターンを用いて、検体や遺伝子を段階的に分類しています。

*11 デュピルマブ関連遺伝子
近年報告された (Gayvert K, et al. J Allergy Clin Immunol. 2024;154:619-630.) デュピルマブの治療応答性に関わる28遺伝子です。

【メンバー】
・東京慈恵会医科大学 分子遺伝学研究部 玉利真由美, 廣田朝光, 佐藤洋平
・東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 中島大輝, 森恵莉, 鴻信義, 小島博己
・東邦大学医療センター大橋病院 耳鼻咽喉科 井上なつき, 吉川衛
・国立成育医療研究センター免疫アレルギー・感染研究部 森田英明
・獨協医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学 中山次久

【論文情報】
タイトル:Comparative transcriptomic analysis of eosinophilic chronic rhinosinusitis with nasal polyps (CRSwNP) using nasal tissue and brushing samples
著者名:Daiki Nakashima, Tomomitsu Hirota, Natsuki Inoue, Mamoru Yoshikawa, Eri Mori, Nobuyoshi Otori, Hiromi Kojima, Yohei Sato, Hideaki Morita, Tsuguhisa Nakayama, and Mayumi Tamari
掲載誌:Allergy
DOI:10.1111/all.70227

【研究支援】
本研究は、科研費(23K08923)および厚生労働科学研究費(21FE2001)の助成を受け行われました。


本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課 
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280

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慈恵大学 プレスリリース一覧
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