【横浜市立大学】VEXAS症候群の重症度を左右する仕組みの一端を解明
横浜市立大学

~遺伝子変異の型による炎症の違いを細胞モデルで再現、治療標的候補と血液バイオマーカー候補を発見~
横浜市立大学大学院医学研究科 幹細胞免疫制御内科学・免疫学教室、附属病院血液・リウマチ内科の東谷佳奈医師(博士課程4年)、同研究科幹細胞免疫制御内科学の桐野洋平准教授、中島秀明教授、同研究科免疫学教室の藩龍馬講師、田村智彦教授らの研究グループは、重篤な自己炎症性疾患であるVEXAS症候群*1について、原因遺伝子UBA1*2の変異の種類によって細胞の炎症反応や細胞死の強さが異なる仕組みの一端を、患者さんの血液を用いた解析と、新たに作製したヒト単球(白血球の一種)の細胞モデルの両方から明らかにしました。また、この炎症反応の中心にRIPK3*3という分子が関わっており、これを阻害する薬剤によって炎症や細胞死を大きく抑えられることを見いだしました。本研究は、VEXAS症候群の重症度を予測するバイオマーカーの開発や、変異の型に応じた新しい治療法の開発に道を開くものです。
本研究成果は、米国リウマチ学会誌「Arthritis & Rheumatology」に掲載されました(2026年9月7日)。
研究成果のポイント
ヒトの単球(白血球の一種)を用い、VEXAS症候群の主要な3つのUBA1遺伝子変異(M41V、M41T、M41L)*4をそれぞれ再現した培養細胞モデルを新たに作製した
遺伝子変異の種類によって、細胞の炎症反応や細胞死の強さが段階的に異なり(M41V>M41T>M41L)、この順序は実際の患者さんの症状の重さの傾向と一致した
この炎症・細胞死の中心にRIPK3という分子が関わっており、これを阻害する薬剤で症状を大きく抑えられることを発見した
患者さんの血液を長期間繰り返し詳しく調べ、血液中のRNASE1*5が疾患活動性を反映する新たなバイオマーカー候補であることを見いだした
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図1 研究概要図。① VEXAS症候群の患者さんの血液を解析し、病気の勢い(疾患活動性)と最も強く関連する分子としてRNASE1を見つけた。② THP-1というヒトの細胞株を遺伝子改変し、VEXAS症候群の患者さんで認められるM41V、M41T、M41L変異を導入した。その結果、M41Vでは炎症反応とRNASE1の上昇が最も強く、M41Lでは比較的弱いことが分かった。③ 炎症性細胞死に関わるRIPK3という分子を阻害する化合物GSK'872を加えると、変異を導入した細胞における炎症反応とRNASE1の発現が抑制された。
研究背景
VEXAS症候群は、血液細胞のもとになる細胞に生じたUBA1遺伝子の後天的な変異が原因で起こる、重篤な自己炎症性疾患です。主に高齢の男性に発症し、皮膚、軟骨、肺、関節、血液など全身のさまざまな臓器に強い炎症を引き起こします。現在の治療の中心はステロイド薬ですが、感染症などの副作用が多く、ステロイドを減らすための新しい治療薬の開発が強く求められています。
UBA1遺伝子の変異にはいくつかの種類がありますが、なかでもM41V、M41T、M41Lと呼ばれる3つの変異が患者さんの9割以上を占めます。これまでの海外の研究から、M41V変異を持つ患者さんは症状が重く、M41L変異を持つ患者さんは比較的症状が軽い傾向があることが知られていました。しかし、同じUBA1遺伝子の変異でありながら、なぜ種類によって重症度が異なるのか、その細胞レベルでの仕組みは十分にわかっていませんでした。
また、当研究グループは2026年、末梢血中のUBA1変異を持つ細胞の割合(VAF)が高い患者さんほど予後が不良であることを、全国規模の前向き研究として報告しています。今回はさらに一歩進め、変異の「種類」がどのように炎症の強さを左右するのか、その分子レベルでの仕組みの解明に取り組みました。
研究内容
研究グループはまず、VEXAS症候群の患者さん13名から通院のたびに繰り返し採取した血液サンプル(合計79検体)を用いて、遺伝子の働き方(発現量)を網羅的に調べました。病気の勢い(疾患活動性)と連動して増減する遺伝子を探索したところ、RNASE1という遺伝子が最も強く相関することを見いだしました。RNASE1は、VEXAS症候群の患者さんの血液中で、健康な人やUBA1変異を持たない類似疾患の患者さんに比べて高く発現しており、なかでも単球(細菌などを取り込んで処理する白血球の一種)で強く発現していることがわかりました。
次に、この現象の仕組みを調べるため、ヒトの単球由来の細胞株に遺伝子編集技術を用いて、3種類の主要なUBA1変異(M41V、M41T、M41L)をそれぞれ導入した培養細胞モデルを新たに作製しました。正常なUBA1タンパク質の産生をスイッチのオン・オフのように切り替えられる仕組みを組み込むことで、UBA1変異による病態を試験管内で再現することに成功しました。スイッチを切って病態を誘導すると、いずれの変異細胞でも、細胞内のタンパク質分解の仕組み(ユビキチン化*6)の働きが低下し、細胞を守るための警報システムである小胞体ストレス応答*7が活性化して、IL-1βなどの炎症関連遺伝子の発現増加や進行性の細胞死、RNASE1の上昇が起こりました。重要な点として、これらの異常の強さはいずれもM41V>M41T>M41Lという同じ順序で段階的に変化しており、実際の患者さんで知られている重症度の傾向とよく一致していました。
さらに、この細胞死の性質を詳しく調べたところ、「ネクロプトーシス*8」と呼ばれる、細胞が壊れる際に周囲に炎症を引き起こす特殊な細胞死が起きており、これにRIPK3という分子が関わっていることがわかりました。実際に、RIPK3の働きを薬剤(阻害剤)で抑えたところ、M41V、M41T、M41Lいずれの変異細胞でも、細胞死、小胞体ストレス応答、炎症物質の産生、RNASE1の上昇、インターフェロン関連遺伝子の活性化まで、ほぼすべての異常が大きく軽減されました。
今後の展開
今回作製したヒト単球細胞モデルは、UBA1変異の種類ごとに異なる炎症の仕組みを試験管内で再現できる実験系であり、今後、新しい治療薬の効果を検証したり、変異の型に応じた治療法を開発したりするための基盤になると期待されます。特にRIPK3は、炎症や細胞死を抑える新たな治療標的の候補と考えられます。ただし、RIPK3阻害薬の開発自体はまだ研究段階であり、狙った働きだけを安全に抑える薬剤をどう設計するかが今後の課題です。また、血液中のRNASE1は、既存のCRPだけでは捉えきれない疾患活動性の変化を反映しうる新たなバイオマーカー候補ですが、臨床で使えるようにするには、より多くの患者さんでの検証や、簡便に測定する方法の確立が必要です。
研究費
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業(JP24ek0410107)、および日本新薬株式会社との共同研究費の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Human Monocytic Models Reveal Genotype-Dependent Inflammatory Programs in VEXAS Syndrome
著者:Kana Higashitani, Tatsuma Ban, Yohei Kirino, et al.
掲載雑誌:Arthritis & Rheumatology
DOI:
https://doi.org/10.1002/art.70332
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用語説明
*1 VEXAS症候群:2020年に発見された希少な炎症性疾患で、成人男性に主に発症する。VEXASは「Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic」の頭文字を取ったもので、骨髄内の多発空胞の存在、X染色体に関連したUBA1遺伝子変異、全身性の自己炎症性反応が特徴である。
*2 UBA1:細胞内でタンパク質に「ユビキチン」という目印を付ける最初の反応を担う酵素。この酵素をつくる遺伝子(UBA1)に後天的な変異が起こることでVEXAS症候群が発症する。
*3 RIPK3:「ネクロプトーシス」と呼ばれる、炎症を伴う特殊な細胞死を引き起こす中心的な酵素(タンパク質)。今回、この働きを薬剤で抑えることで、VEXAS症候群モデル細胞の炎症や細胞死を大きく軽減できることが示された。
*4 UBA1遺伝子変異(M41V、M41T、M41L):UBA1遺伝子の41番目のアミノ酸(メチオニン)が別のアミノ酸に置き換わる変異。置き換わる先のアミノ酸の種類によってM41V、M41T、M41LなどのUBA1変異のタイプに分類され、患者さんの9割以上がこの3種類のいずれかを持つ。
*5 RNASE1:血管内皮細胞などでつくられるRNA分解酵素の一種。今回、VEXAS症候群患者さんの血液中の単球で強く発現しており、疾患活動性と相関することが明らかになった。
*6 ユビキチン化:細胞内のタンパク質に「ユビキチン」という小さな目印を付ける仕組み。不要なタンパク質の分解など、さまざまな生命活動に関わる。UBA1はこの反応の出発点を担う酵素である。
*7 小胞体ストレス応答(UPR):細胞内でタンパク質が正しく折りたたまれずに蓄積した際に働く、細胞を守るための警報システム。過剰に働き続けると、かえって細胞死や炎症を引き起こす。
*8 ネクロプトーシス:プログラムされた細胞死の一種で、細胞が壊れる際に炎症を引き起こす物質を周囲に放出する「炎症を伴う細胞死」。RIPK3などのタンパク質によって制御される。
参考文献
[1] Beck DB, Ferrada MA, Sikora KA, et al. Somatic Mutations in UBA1 and Severe Adult-Onset Autoinflammatory Disease. N Engl J Med. 2020;383(27):2628-2638.
[2] Kirino Y, Maeda A, Asano T, et al. Low remission rates and high incidence of adverse events in a prospective VEXAS syndrome registry. Rheumatology (Oxford). 2025;64(6):3872-3878.
[3] Kirino Y, Maeda A, Higashitani K, et al. Peripheral Blood UBA1 Variant Burden Predicts Poor Outcomes in VEXAS Syndrome: A Nationwide Prospective Study. Ann Rheum Dis. 2026(本学関連プレスリリース:2026年4月発表
https://www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2026/20260402kirino.html)
[4] Narendra VK, Das T, Wierciszewski LJ, et al. Independent mechanisms of inflammation and myeloid bias in VEXAS syndrome. Nature. 2026;649(8099):1273-1281.
[5] Breillat P, Magaziner SJ, Camus SM, et al. Inflammatory cell death and monocyte dysfunction in VEXAS syndrome. Blood. 2026;147(24):2944-2957.

記事提供:Digital PR Platform