日本のアカガエル類への温暖化影響を実証
NACS-J

-19年間の全国規模の市民調査で明らかに-
●日本自然保護協会を含む研究グループは、全国の市民調査データをもとに、日本のアカガエル3種の産卵時期が、温暖化の進行に伴い全国規模で年々早まっていることを明らかにした。
●産卵時期は気温だけでなく、降水量や個体数が多い地域ほど早まる傾向があった。
●これは、全国の市民による19年間の調査によって得られた、貴重な両生類の長期データに基づく気候変動影響評価である。
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ヤマアカガエルの産卵の様子(撮影:佐藤良平氏)
日本自然保護協会(理事長:土屋俊幸、以下NACS-J)は、柗島野枝氏(国立研究開発法人国立環境研究所 高度技能専門員)と協力して、全国の市民が参加する「モニタリングサイト1000 里地調査(環境省事業)」で収集されたアカガエル類の19年間(2004~2023年)の産卵データを解析しました。
その結果、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、エゾアカガエルの産卵時期が、温暖化に伴い全国的に早まっていることが明らかになりました。本研究は、市民が長年蓄積した「コミュニティサイエンス(市民調査)」のデータが、気候変動による生物への影響を科学的に証明する強力な証拠となることを示しています。この成果は、2026年5月16日にEcological Research誌に掲載されました。
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アカガエル類の成体(写真:前田憲男氏)と卵塊
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調査の様子
近年、世界的に気候変動が生物季節(生物の生活史における季節的な応答)に影響を与えていることが報告されており、多くの両生類で繁殖時期の変化が報告されています。しかし、日本の両生類については、繁殖時期の変化に関する報告がほとんどありませんでした。
本研究は、環境省「モニタリングサイト1000里地調査」で全国の88ヶ所の調査サイトにおいて1176名の市民調査員の協力を得て記録した19年間のカエル類調査のデータを解析し、アカガエル類の産卵時期の変化とその要因を明らかにしました。
1. アカガエル3種すべてで産卵が早期化
調査した3種すべてで産卵時期が早まる傾向が確認されました(図1)。特に本州・九州・四国に生息するニホンアカガエルとヤマアカガエルは、2012~2020年にかけて年間1~2日程度で産卵が早まっていました。この期間は、全国の1~3月の平均気温が上昇傾向を示しており(図2)、両種の産卵時期の早期化と同調した変化がみられました。
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図1:全国の調査サイトにおけるアカガエル3種の産卵時期(初産卵日)の長期トレンド。細線は各調査サイトの産卵日、黒線は回帰線を示す
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図2:1月から3月までの平均気温の経年変化。実線と網掛け部分は、日本の9地域における平均気温と標準誤差を、点線は北海道の気温を表す
2. 「冬の気候」が翌春の産卵タイミングを左右
晩冬~早春というまだ寒さの残る時期に繁殖期を迎えるアカガエル類は、冬の気温変化が繁殖開始に影響すると予想されます。解析の結果、ニホンアカガエル・ヤマアカガエルは、1月の平均気温が高いほど産卵が早まり、2月の積雪量が多いほど遅れる傾向が確認されました(図3)。また、北海道に生息するエゾアカガエルにおいては、1月の最高気温が高く、降水量が多い年ほど早まる傾向がみられ、予想を支持する結果が得られました。
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図3:アカガエル3種の気候要因と初産卵日の関係。●(オレンジ)は2月の積雪深が10cm未満の調査地、▲(水色)は2月の積雪深が10cm以上の調査地、黒い線は回帰直線を示す。
3. 個体数が多い地域ほど産卵が早まる
アカガエル類の雌は年に1個の卵塊しか産まないため、水辺にある卵塊をすべて数えることで地域全体の雌の個体数を正確に把握できます。この特徴を利用し、卵塊数を環境指標として解析した結果、卵塊数(=個体数)が多い場所ほど、初産卵日・産卵ピーク日ともにやや早まる傾向があることが分かりました。
この傾向が生じる理由として、特に初産卵日については2つの要因が考えられます。1つ目は卵塊数が多いほど調査員による発見可能性が高まり、結果として繁殖日が早く記録されやすいという観察バイアスの影響です。2つ目は、越冬場所の環境に多様さが生じる可能性です。アカガエルは地面の下や水中で越冬し、冬眠後直ちに繁殖に参加すると考えられています。越冬場所の温まり方は、日当たりや積雪の程度の違いなどで、生息地内でも微妙に異なります。個体数が多いほどいろいろな場所で越冬することになるので、気温の変化に迅速に反応する個体が存在する確率が高まるためです。
以上の結果は、長期的な生物季節の変化を正確に評価するためには、産卵時期の記録だけでなく、地域内の個体数の把握が不可欠であることも示しています。例えば保全活動により個体数が増加している地域では、気候変動の影響がなくても見かけ上の繁殖前倒しが起こり得るためです。
4. 地域間の気温応答の差が小さい
ニホンアカガエルとヤマアカガエルのそれぞれで、調査サイトの産卵時期直前の平均気温を比較したところ、どちらの種でも緯度によって繁殖開始頃の気温の違いは見られませんでした(図4)。アカガエルの繁殖の開始には温度が強く関わっていると考えられていますが、この結果は、例えば北と南の方の地域でアカガエルが繁殖を始める気温に違いはないことを示唆しており、どの地域のアカガエルでも気温の変化に対して同じように反応する可能性を示しています。どのような温度条件で繁殖行動が開始されるのかについては、さらなる研究が必要です。
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図4:ニホンアカガエルとヤマアカガエルの調査サイトの緯度と初産卵日直前7日間の平均気温の関係
1. 気候変動の影響の解明と、気候変動適応策への応用
今回の研究では、アカガエル3種で産卵時期の早期化が全国的に進んでいることが示され、冬の気候条件や個体数など複数の要因が繁殖タイミングを左右することが明らかになりました。これは、気候変動が特定の種だけでなく、より多くの両生類や他の生物群にも広く影響を及ぼす可能性を示唆しています。モニタリングサイト1000里地調査の既存の解析結果からアカガエル3種の個体数が減少傾向にあることも併せて、気候変動が繁殖に与える影響をより正確に把握し、保全対策に生かしていくことが重要です。
産卵時期の前倒しは、孵化後のオタマジャクシの生存率や成長、天敵・餌生物との関係など、生態系全体のバランスに影響し、生物間のミスマッチを引き起こす恐れがあります。今後の両生類の保護・保全計画では、こうした生物季節の変動を考慮することが不可欠です。
2. 市民調査(コミュニティサイエンス)の重要性
本研究は、市民による広域・長期の調査が、気候変動の生物への影響を検出、評価できることを示しました。市民調査向けに設計された調査方法であっても、適切な指標と解析手法を用いればバイアスを十分に軽減できることが明らかになりました。これにより、ボランティアが参加しやすい柔軟な仕組みを維持しつつ、科学的に信頼できる成果を得られることが示されました。気候変動の生物及び生態系への影響を継続的に監視するため、市民調査が極めて重要であることも明らかになりました。
◆発表論文
Matsushima, N., Fujita, T., & Yasumiba, K. (2026).Trends Toward Earlier Breeding Related to Temperature in Early Spring-Breeding Brown Frogs Revealed by Community Science Monitoring in Japan. Ecological Research, 41(3), e70080.
https://doi.org/10.1111/1440-1703.70080
モニタリングサイト1000
環境省が推進する生物多様性の観測プロジェクト。全国約1000ヶ所のモニタリングサイトを設置し、日本の生物多様性に関する基礎的な情報の収集を長期にわたって継続し、日本の自然環境の質的・量的な変化の把握を目指しています。
モニタリングサイト1000 里地調査におけるカエル調査の方法概要
モニタリングサイト1000 里地調査では、全国の市民調査員が冬から春にかけて決められた調査ルートや水辺を巡回し、アカガエル類の卵塊数・産卵状況を記録します。調査は、産卵期に複数回訪問することで、初産卵日・産卵ピーク日・卵塊数(個体群サイズの指標)を把握できるよう設計されています。
調査頻度の目安は、産卵期(地域により12月~4月頃)に週1回程度の巡回が推奨されており、産卵の進行状況を継続的に追跡できるようになっています。調査地は全国に広く分布し、都市近郊の里山から農地、森林周辺まで多様な環境が含まれます。
公益財団法人 日本自然保護協会について
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自然保護と生物多様性保全を目的に、1951年に創立された日本で最も歴史のある自然保護団体のひとつ。会員2万4千人。ダム計画が進められていた尾瀬の自然保護を皮切りに、屋久島や小笠原、白神山地などでも活動を続けて世界自然遺産登録への礎を築き、今でも日本全国で壊れそうな自然を守るための様々な活動を続けています。「自然のちからで、明日をひらく。」という活動メッセージを掲げ、人と自然がともに生き、赤ちゃんから高齢者までが美しく豊かな自然に囲まれ、笑顔で生活できる社会を目指して活動しているNGOです。山から海まで、日本全国で自然を調べ、守り、活かす活動を続けています。
http://www.nacsj.or.jp/
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