2025年01月02日
日本における人手不足問題は年々深刻化しており、企業経営にとっての最重要課題の一つになりつつある。仕事は入ってくるのに人手不足のために請けられない、黒字経営なのに
事業を継続するための必要な人員を確保できずに倒産に至るなど、業績拡大、業務継続の大きな足かせとなっているのが現状だ。
帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」によると、正社員が不足していると感じている企業の割合は 51.7%と前回調査に続いて5割を上回る高水準で移行している。タイミーやシェアフルなどの隙間バイトサービスを活用する企業も増えているが、あくまでも急場しのぎであり、根本的な解決にはならない。
先の帝国データバンクの調査では、ITエンジニアなどの「情報サービス」分野が 70.2%、「メンテナンス・警備・検査」も69.7%と、とくに危機的な人手不足であることを伝えているが、日本の伝統文化を担う産業などは技術の継承者不足や高齢化も相まって、数字以上の深刻な状況に頭を抱えている。
清酒業界もその一つだ。日本酒は今や世界中で「SAKE」として親しまれており、日本の「伝統的酒造り」が2024年12月5日にユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、今後も需要の伸びが期待できそうだ。ところが、職人の高齢化に加え、後継者が育ちにくいなどの人手不足問題が発生している。とくに深刻なのは、酒造りにおける最高責任者であり、酒蔵の製造現場を取り仕切る「杜氏(とうじ)」の減少だ。杜氏は、米の選別や麹の製造、発酵の管理、醸造工程全体を監督する、品質の高い日本酒を造るためには欠かせない存在である。全国各地の名産地には、南部杜氏や越後杜氏、丹波杜氏など、独自の杜氏集団が存在し、それぞれ特有の技術や流儀を代々受け継いできた。近年、清酒業界でも機械化や自動化、AIなどの最新技術が続々と導入されてはいるが、それでも最終的な味と品質を左右するのは、杜氏の熟練の技によるところが大きい。
当然、酒蔵もこの人手不足の状況にただ手をこまねいているわけではない。
日本酒のトップメーカーである白鶴酒造では、1963年まではすべて出稼ぎ杜氏によって、冬季に酒造りが行われていたが、1964年に一年中酒造りができる本店三号工場(四季醸造工場)が稼働したことを機に、蔵の責任者としての杜氏の役割を社員が担う社員杜氏制へと徐々に移行してきた。2000年頃からは、杜氏だけでなく、出稼ぎ従業員(蔵人)も不足してきたことで、社員が季節蔵の責任者も兼ねるようになった。さらに同時期に丹波杜氏組合に加盟し、白鶴酒造の3蔵の責任者が丹波杜氏の認証を受けている。丹波杜氏組合に入ることで他社の杜氏と交流が生まれるので技術情報の交換や酒造技術の研鑽にも繋がっているという。
また、白鶴酒造では女性の雇用も積極的に行っている。1985年に男女雇用機会均等法が制定されたことを機に、同社では部署を限定せず男女を採用しており、1987年には業界で初めて、酒蔵に女性を配属している。現在同社の酒蔵で酒造りをする女性は全体で2割程度、本店三号工場では1/3を占めているという。
さらには、2015年には丹波篠山市に農業法人「白鶴ファーム株式会社」を設立し、夏場に社員が米作りをし、収穫後に酒造りを行っている。春から秋まで米づくりをしていた農業従事者が冬場に出稼ぎで酒造りを行ってきた従来の方法とは逆のパターンだ。これにより、杜氏や蔵人として働く社員の労働力を季節に合わせて平準化することができる。
もちろん、白鶴酒造だけではなく、他の酒造会社も杜氏や蔵人の減少に頭を悩ませつつも、伝統の味と技術を継承するために努力している。かつて清酒業界は女人禁制の男性社会の伝統があったが、今では、現在全国に1500ほどある酒蔵の内、50ほどの蔵で女性杜氏が活躍しているという。伝統ある酒造りの現場も時代に合わせて変化して対応している。他の業種や業界でも見倣いたいものだ。(編集担当:藤原伊織)
記事提供:EconomicNews
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