2026年06月21日
今回のニュースのポイント
株式会社コーセーは北海道大学との共同研究により、真皮のミトコンドリアへ化粧品成分を届けるカプセル技術を開発しました。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー生産を担い、加齢に伴う機能低下が肌の老化の一因とされています。今回の研究は、従来の肌表面を保護するケアにとどまらず、細胞機能そのものに着目して働きかけるアプローチを志向しており、化粧品産業における高機能化に向けた新たな技術開発の方向性を示しています。
本文
コーセーが発表した新たな技術は、北海道大学大学院薬学研究院の山田勇磨教授らのグループが開発したナノカプセル「MITO-Porter™(マイトポーター)」に着目し、その優れたミトコンドリア膜突破性を応用したものです。開発にあたっては、カプセルの構成成分の組み合わせや粒子径の制御、製造条件の最適化について検証が実施されました。肌表面から真皮への浸透性、真皮線維芽細胞への取り込み、ミトコンドリアへの移行性を指標に処方の最適化を図ることで、効率的にミトコンドリア近傍に届く化粧品用カプセルを実現したとしています。
ヒト皮膚を用いた浸透挙動の解析では、本技術を用いていない比較品よりも多くの成分が真皮にて検出されており、成分を肌の奥深くへ送り届けるポテンシャルが確認されました。なお、ベースとなった「MITO-Porter™」は、もともと医薬分野においてドラッグデリバリー技術として研究が進められてきたナノカプセルであり、その知見を化粧品へ応用した点も今回の取り組みの特徴となっています。
今回の研究の背景には、加齢に伴って生じるシワやたるみといった肌悩みの根本的な要因に対するアプローチがあります。肌のハリを維持するコラーゲンなどの産生は、真皮線維芽細胞内にあるミトコンドリアのエネルギー産生機能と深く関係していると考えられています。ミトコンドリアの働きが衰えることでこれらの産生が滞り、結果としてシワやたるみを引き起こすため、有用成分をミトコンドリアの近傍へ的確に届けるための効率的な手法が長年求められてきました。評価試験では、開発されたカプセルが比較品と比べてより多く線維芽細胞内へ取り込まれることが確認されたほか、共焦点レーザー顕微鏡での観察によりカプセル内の成分がミトコンドリア近傍に集積している様子が確認されており、細胞のエネルギー機能に着目したエイジングケア技術として位置づけられています。
経済的な観点から見ると、こうした技術開発は、化粧品産業が従来の美容用品の枠組みを超え、細胞レベルのエネルギー環境へのアプローチを志向する「細胞インフラ型」の研究開発へと足場を広げつつある潮流を物語っています。従来の化粧品は、角層や表皮レベルで水分や油分を補い、バリア機能を守る「肌表面のケア」が主たる役割とされてきました。
しかし、今回のミトコンドリア送達カプセルは、真皮線維芽細胞の内部、さらにはミトコンドリア近傍という細胞内の深部へ成分を送り届けるアプローチを志向しています。健康寿命の延伸やウェルビーイングの達成が重視される現代において、肌のハリや弾力といった見た目の調整を超えて、細胞の機能維持やエネルギー代謝の側面に主眼を置くアプローチは、生活者の健康・美容ニーズを背景に、こうした研究開発が進む可能性があります。
コーセーは今後、このカプセルに内包すべき有用成分の検討を進め、ミトコンドリアに対する多角的な機能向上の検証を通じて新たなエイジングケア技術の実用化に向けた研究を進める方針です。今回の研究は、化粧品が生命科学やドラッグデリバリー研究など異分野の技術を取り込みながら、高機能化を進める流れを象徴する動きと言えます。
これまで個別に存在していた美容、健康、予防といった領域の境界が一段と近づくなかで、ミトコンドリアをはじめとする細胞機能へのアプローチは、サプリメントや医薬品にとどまらずパーソナルケア全般へ応用領域が広がる可能性があり、美容・健康・ウェルビーイングが重なり合う市場の広がりを考えるうえで示唆に富む研究と言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)
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記事提供:EconomicNews
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