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日本酒の「良い香り」だけ増やせるか 白鶴、AIで酵素構造を予測し有望な変異を発見

2026年09月12日

吟醸酒の香気成分を高める酵母研究を進める白鶴酒...

今回のニュースのポイント

白鶴酒造は、吟醸酒のフルーティーな香りの主成分「カプロン酸エチル」を増やしながら、脂っぽい不快臭の原因となる前駆体「カプロン酸」の増加を抑えるため、酵母の酵素を改変する研究を進めました。タンパク質立体構造予測AI「AlphaFold2」を用いて酵素の構造を予測し、抽出した22個の候補残基を選定。それぞれをトリプトファンに置換した変異株を作製して清酒仕込み試験を実施しました。その結果、長鎖アシルCoA合成酵素「Faa1」および「Faa4」の点変異株において、カプロン酸エチル濃度が増加し、カプロン酸に対するカプロン酸エチルの濃度比(Ester/Acid比)も顕著に向上することを確認しました。研究成果は9月15日の第78回日本生物工学会大会で発表されます。

本文
 日本酒の「特定名称酒」の一つである「吟醸酒」は、フルーティーな「吟醸香」が大きな特徴です。しかし、酒造りの現場では「良い香りにつながる成分を増やすと、その前駆体(原料となる物質)である不快臭成分も増える」という課題が存在していました。白鶴酒造が取り組む最新の酵母解析研究は、醸造におけるこの香りのジレンマを解き明かす試みです。

 吟醸香の主成分である「カプロン酸エチル」を多く生成する酵母は、その原料となる「カプロン酸」も同時に多く生成してしまう特性を持っています。カプロン酸は脂っぽい不快臭を持つため、単に香りを増量させようとするだけでは酒質のバランスを損ねる原因となります。同社研究チームは、カプロン酸そのものを増やすのではなく、発生したカプロン酸をカプロン酸エチルへと効率よく変換させる経路の強化に着目しました。

 研究では、出芽酵母が持つ長鎖脂肪酸アシルCoA合成酵素群(Faa1〜4およびFat1からなるFaaファミリー酵素)を対象に系統的な解析が行われました。

 技術的プロセスにおいて重要な役割を果たしたのが、コンピューター上の計算科学と実際の醸造実験の融合です。まず、タンパク質の三次元構造を高精度に予測するAI技術「AlphaFold2」を用いて各酵素の立体構造を予測。続いて、分子結合シミュレーションツール「AutoDock Vina」を活用して、酵素と長鎖脂肪酸が結合する部位を解析しました。

 この予測データに基づき、基質(変換対象の物質)が入り込む「ポケット」の大きさに関与する可能性がある残基を抽出。合計22個の候補残基を選定し、それぞれをアミノ酸の一種であるトリプトファンに置換した変異株を作製して、実際の清酒仕込み試験による検証へと進みました。AIによる構造予測を研究全体の自動化として捉えるのではなく、仮説構築と候補絞り込みのための工程として活用し、実際の清酒製造環境で効果を検証した点が特徴的です。

 仕込み試験の結果、Faa1およびFaa4の各変異株において、野生型株と比較してカプロン酸エチル濃度が増加しました。さらに、カプロン酸エチル濃度をカプロン酸濃度で割った「Ester/Acid(エステル/アシッド)比」でも、Faa1およびFaa4の各変異株は野生型株と比べて顕著な向上を示しました。この数値が高いことは、不快臭成分に対して香気成分が多く作られているということになります。

 白鶴酒造は、点変異によって酵素の基質特異性が変化したことでカプロン酸から中間体であるカプロイルCoAへの変換が生じ、その後のカプロン酸エチル合成促進につながった可能性が示唆されたとしています。

 今回の発表は、有望な変異点と香気成分の変化傾向を突き止めた基礎・応用研究の段階であり、実際の酒造りに遺伝子組み換え酵母を使用するということではありません。白鶴酒造は今後、今回得られた知見をもとに、実際に吟醸酒製造で使用されているカプロン酸エチル高生産酵母由来の突然変異株の育種研究に活用し、よりフルーティーで、すっきりとした香りを両立する新しい吟醸酒の開発を目指すとしています。研究成果の詳細は、9月15日に北海道大学で開催される第78回日本生物工学会大会で公表される予定です。

 香りを単純に「強くする」のではなく、酵母が持つ酵素の働きと香気成分の関係を解明し、より効率的な香りづくりにつなげようとする今回の研究。計算科学による候補探索と実際の清酒仕込み試験を組み合わせた手法が、今後どこまで吟醸酒の香りの改良につながるかが焦点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)

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